ADHDの傾向をポジティブに活かす②
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ADHD(注意欠如・多動症)における脳の働き ADHD傾向の特性をもつ子どもは、決してめずらしくありません。原因は環境や育て方によるものではなく、脳の神経伝達物質の働きの違いによるもので、正しい理解と支援が必要です。基礎知識を身につけて、個々の特性を〝活かしながら伸ばす〟支援の方法を考えましょう。 |
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ADHDには前頭前野の働きが関係 日本の学齢期の子どもにおけるADHDの有病率は、3~5%とされています。また自閉スペクトラム症(ASD)の約30%、学習障害(LD)の約50%、チック症の約10%に併発するというデータもあります。ADHDは性格や育った環境、育て方が原因ではなく、脳の神経機能に関わる先天的な特性によって生じると考えられており、特に脳の前頭前野の働きが関係していると考えられています。前頭前野は注意力や計画性、感情の調整や衝動の抑制などをつかさどる部分で、日常生活や集団行動を行う上での基盤となります。ADHDでは前頭前野の神経回路で情報伝達を行うドパミンやノルアドレナリンの働きに偏りがあり、注意散漫や衝動的な行動につながりやすくなるとされています。 |
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前頭葉での神経伝達物質の働き(略図) ![]() 定型発達ではドパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が受容体に十分に取り込まれ、濃度が保たれることで神経伝達が円滑に行われるとされている。一方ADHDの人ではこれらの神経伝達物質がシナプス(※)前部からシナプス後部へうまく伝わらず、様々な行動上の問題として現れると考えられる。 ※細胞間で情報伝達を行う接合部。 |
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薬に頼らず、環境調整やことばかけによる支援を ADHDの治療と支援は、環境調整やことばかけなどによる心理社会的治療から始めることが大切です。薬物治療は、心理社会的治療の効果が不十分であると確認した上で検討すべき選択肢とされています。日本では、4種類のADHD治療薬が承認されていますが、いずれも6歳以上が適応となっています。治療効果が期待される一方で、食欲不振や眠気などの副反応が出て本人の不利益とならないよう、投薬開始前に利点と併せて副反応についても説明することが、医療者に求められています。 ADHD傾向の幼児期の子どもと接する保育者は、薬物治療に頼るのではなく、子どもの特性を踏まえた上で生活環境を整えたり、ことばかけなどを工夫したりすることが大切です。幼児期だからこそ、好ましい行動を習慣にして、自己調整力を高めるための支援が必要なのです。それらの支援は子どもの特性をよい方向に活かして自己肯定感を高めることにつながり、子どもが自分らしさを発揮しながら成長していく助けになるでしょう。 |
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教えてくれた人/ 東京家政大学名誉教授、かせい森のクリニック院長 宮島 祐 イラスト/市川彰子 取材・文/山口有子 |


