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子どもとつながる絵本②


絵本を介して自然に共同注意が成立

一方で、自閉スペクトラム症(ASD)などのある子どもの場合、共同注意が成立するものの、情緒的な交流が伴いにくい傾向があります。二つの対象に同時に注意を向けるのが苦手、注意を向ける部分が他者と違う、他者に興味を持ちづらいといった特性が影響していると考えられます。保育者が一部の子どもに対して感じる「関わりの持ちづらさ」の原因も、この発達の特性と関係していると言えるでしょう。
子どもに対して関わりづらさを覚えたとき、その子のコミュニケーション能力が不足しているためだと考えるのではなく、保育者と子どもの間にある認知や感覚の違い、関心の持ち方の違いによってズレが生じやすい状態なのだと捉えた方が、より子どもに寄り添ったコミュニケーションを実現できるはずです。
絵本の読み聞かせでは、読み手(保育者)、聞き手(子ども)、対象(絵本)という三項関係がごく自然につくられます。読み手は対象である絵本の一部としても機能するため、共同注意が苦手な子どもでも注意が向きやすくなります。このように、絵本はコミュニケーションツールとして、子どもと保育者をつなげてくれるのです。
絵本は「共同注意」が生じやすい
絵本を読み聞かせする際、読み手である保育者の視線は、絵本のページと聞き手である子どもの顔を自然に行き来します。保育者にとって「この子はどこを楽しんでいるのかな?」と子ども自身の注意や関心を探る意識を持ちやすくなり、結果的に共同注意が成立しやすくなります。
絵本には子どもが喜ぶ要素がいっぱい
前述の共同注意の関係が成立していれば、子どもは対象と相手の両方に注意を向けるので、保育者は「一緒に楽しめている」という実感を得られます。絵本を媒介にしたコミュニケーションでは、この関係が生じやすいのです。
また、絵本には子どもの興味を惹きつける様々な要素があります。絵や物語の魅力はもちろん、ことばやオノマトペの面白さ、同じ展開のくり返しによる期待感、逸脱することへの驚き、図鑑であれば形や種類の豊富さなど、数々の要素が盛り込まれているので、多くの子どもにとって楽しいと感じられます。ほかの子とは違うものに興味を持つ子どもでも、どこかに自分が楽しめる要素を見つけられるはず。子どもが絵本のどの部分に関心を持っているのか、保育者は、子どもの反応を注意深く観察してみましょう。

絵本を介した関わりの特長
保育者と子どもがともに眺める対等な関係に
子どもにとって読み手である大人は、絵本を読み聞かせる提供者であると同時に、同じ読書体験を共有する仲間の立場でもあります。「子どもと向き合う」だけでなく、「子どもと一緒に眺める」関係になることが大切です。
人によって多様な視点で読むことができる
同じ絵本の同じページを読んでいても、音の響きを楽しむ子、色彩の美しさに関心を持つ子など、注目する点や感じることは人それぞれです。多様な読み方ができる「懐の深さ」も絵本の魅力です。
絵や登場人物などの力を借りることができる
絵本は子どもの興味を引く登場人物、ことば、舞台設定、物語など様々な要素で構成されています。絵本の力を借りることで、経験の浅い保育者でも読むだけでコミュニケーションを図りやすくなります。
教えてくれた人/
関東学院大学教育学部 こども発達学科講師 長澤真史
イラスト/nanako
取材・文/柴野 聰
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PriPriパレット 2024-2025 12・1月号

PriPriパレット 2024-2025 12・1月号

51,52,54.ページに掲載

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