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発達障害のある子が見ている世界①

定型発達の人には不思議にも感じられる発達障害のある子の行動。その謎を解く鍵は、脳の特性にあることが脳科学研究によって少しずつ明らかになってきました。その行動が起きるわけを科学的な視点から知り、子どもへの理解をさらに深めましょう。
全体把握より部分的な情報処理に特化
私たちは五感で得た周辺情報を脳で統合・処理して、周囲の状況を判断しています。活動の切り替えも、友だちが帽子を被った、保育者が声かけをしていたなどの周辺情報を元に「散歩の時間だ。あそびを終わらせよう」と状況判断しているから。一方、発達障害のある子の脳は部分的な情報処理は得意ですが、全体的な情報処理を苦手とする「木を見て森を見ず」な特性があります。目の前のあそび(木)に集中し、周りの状況(森)が目に入らないので適切な状況判断ができません。このような子に「散歩」の絵カードを見せると活動を切り替えられるのは、絵カードという部分的な視覚情報には意識が向きやすいからだと言えます。
感覚の過敏さと鈍麻が共存する
発達障害のある子は、感覚刺激の処理に問題を抱え、定型発達の子とは異なる感覚を持つことがあります。そのような感覚処理の特性は、感覚刺激への感度や反応の傾向によって、「感覚過敏」「感覚鈍麻(低登録)」「感覚探求」「感覚回避」の4つに分類されます(41ページ参照)。とはいえ、光や音などの刺激をどう感じているかは本人にしかわからないため、客観的な評価はしにくいものです。また、発達障害のある子は、けがをしても気づかない一方で、衣服のチクチクを嫌がるなど、刺激に対する〝過敏さ〟と〝鈍麻〟という相反する特性を併せ持つケースもあります。このような姿は、わがままや勘違いと思われることもあり、感覚処理の問題が周囲から理解を得にくい要因にもなっています。保育者は子どもの感覚を否定せず、子どもに無理をさせないように関わることが大切です。
井手先生の研究室から
脳内のGABA濃度と感覚過敏
井手先生の研究チームで自閉スペクトラム症(ASD)の人の脳内代謝物を計測したところ、脳のある領域に含まれるGABAという神経伝達物質が少ない人ほど感覚過敏の症状が強いとわかりました。しかし、GABAを体外から摂取しても脳には取り込まれないため、残念ながら、GABA入りのチョコを食べても感覚過敏を軽減する効果はないとのこと。とは言え、今後、GABAが感覚過敏改善に向けた研究の糸口になることは期待できそうです。
教えてくれた人/
国立障害者リハビリテーションセンター研究所 脳機能系障害研究部 研究員
井手正和
イラスト/こばやしみさを
取材・文/森 麻子
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掲載されているのは

PriPriパレット 2025年2・3月号

PriPriパレット 2025年2・3月号

38,40,42,44ページに掲載

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