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発達障害のある子が見ている世界②

リミッターをかけずに脳がフル稼働している
私たちは周辺情報を脳内で処理しながら日々過ごしていますが、あらゆる情報を取り込んで処理をしようとすれば、脳には大きな負担となるでしょう。そのため、キャパオーバーを起こさないように、脳には取り込む情報量を制限したり、情報を処理する精度を抑えたりするリミッター機能が備わっています。しかし、発達障害のある子の脳は、定型発達の子の脳が情報処理に抑制をかけるときでも、制限なしにフル稼働していると推測されます。
発達障害のある子は、いつもと違う道を通るとパニックになったり、ほかの人が気づかない蛍光灯の点滅に気づいたりすることがあります。実はこれも、脳がリミッター機能を働かせずに情報を取り込んだり、情報処理を行ったりする特性と関係しています。
フィルターで脳に取り込む情報を取捨選択
定型発達の子は、いつもと違う道でも不安を感じることはあまりありません。それは、脳が取り込む情報量にフィルターをかけているから。情報量が限られているので、いつもの道との違いを感じにくいのです。しかし、フィルターをかけずに情報を取り込む発達障害のある子には、〝いつもの道〟と〝いつもと違う道〟では、道幅も建物もにおいも音もすべてが別物。まるで異世界に迷い込んだような恐怖を感じるのだと考えられます。
定型発達の子
大量の情報は、脳のフィルターを通して、脳に負担がかからないコンパクトな量に取捨選択される。
発達障害のある子
フィルターによる取捨選択が行われないので、処理能力を上回る大量の情報が脳に負担をかける。
高い時間分解能と感覚の過敏さとの関係
私たちは、左右の手を少しの時間差で触られたとき、どちらを先に触られたか答えることができます。このような時間的な順序の判断は、周辺状況を正確に把握するために備わった脳の情報処理機能のひとつで、時間分解能といいます。井手先生の研究で、時間順序判断課題(※)による比較テストを行ったところ、感覚過敏の症状が強い発達障害のある人ほど時間分解能が高いこともわかりました。
蛍光灯は約0・0 2秒ごとに点滅していますが、多くの人はこれを目で認識できないため、ずっと点灯しているように見えます。しかし、時間分解能が高い人にはこの点滅が見えるので、チカチカが気になってしまう場合も。多くの人に見えない点滅が見えるのは、脳がリミッターをかけず、フル稼働で視覚情報を処理しているからなのです。
※時間順序判断課題とは
両手の指先に微細な振動を与える装置(バイブレーター)をつけ、1/1000秒単位のわずかな時間差で左右ランダムに振動を与える。あとに振動を感じた側のボタンを押して回答するという課題。
教えてくれた人/
国立障害者リハビリテーションセンター研究所 脳機能系障害研究部 研究員
井手正和
イラスト/こばやしみさを
取材・文/森 麻子
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PriPriパレット 2025年2・3月号

PriPriパレット 2025年2・3月号

38,40,42,44ページに掲載

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