柴田愛子のハートフルエッセイ
子どものけんか
エピソード1 そうま君とりお君
あら、あら、砂場でけんかが始まりました。3歳児のそうま君が持っている大きい黄色のシャベルを、3歳児でいちばん小さいりお君が取りに行ったのです。ふたりは無言のまま、長いシャベルの両端から手を離さずにすったもんだしています。
保育者がりお君に「ここに同じのがあるよ」と声をかけましたが、りお君は聞く耳持たず。「そんなの知ってるよ。だけど、そうま君のシャベルがいいの!」ということでしょう。しかし、大きいそうま君のほうが力がありました。シャベルはそうま君の手に。ところがです。りお君がそうま君に向かって泣いてアピールを始めました。目をそらさず、ワーンと大きな声をあげ続けます。そうま君は困っちゃいました。
「ぼくが先に持っていたのに」とつぶやきましたが、やがて、「しょうがないなぁ」と、シャベルをりお君に渡しました。ニコッ。ちゃっかり泣きやんだ、りお君でした。これはふたりの関係が生まれた頃のエピソード。ことばは使わずとも、なかよくなるための手段を、子どもは本能的に知っているのです。
文/柴田愛子 撮影協力/りんごの木(神奈川県)
写真/磯﨑威志(Focus&Graph Studio) 編集/森 麻子