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聞こえているのに、聞き取れない?①

子どもが話を聞いていないようだったり、指示と違うことをするとき、聞く気がない、話の理解ができないのではなく、「聞き取り」に問題がある可能性があります。様々な理由から、聞き取りづらさを感じている子どもがいることを、保育者は知っておきましょう。
「聞き取りづらさ」のある子どもがいる
気づかれにくい聞き取りづらさ
「音が聞こえていないのでは」と感じられる子どものなかに、聴覚検査では問題が検出されないケースがあります。これは、音は聞こえているのに、聞き取りが困難――ざわついたところで聞き取れない、複数人の話についていけない、長い話を集中して聞けない、覚えていられないなどの症状で、「聴覚情報処理障害(APD)」と呼ばれます。ただし、背景や要因などは様々で、研究途上にあるため、症状を総称する「聞き取り困難(LiD)」の表記に移行しつつあります。また、発達障害との関連性も指摘されています。ある調査によると、聞き取りづらさを訴えて診察に来た子どもの半数以上が、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの傾向を併せもつというデータが出ています(※)。一方、聴覚検査で検出される、聞こえない・聞こえにくいケースは「難聴」と呼ばれ、音を大きくすることで聞こえやすくなります。
園など集団生活の場が気づくきっかけになる
LiD/APDによる聞き取りづらさのある場面や程度は、人によって違います。共通しているのは雑音の中で人の声が聞き取りづらいことですが、それに子ども自身が気づき訴えることは難しいです。また、静かなところや、一対一で会話をしているときの声は聞き取れるため、家庭では気づきにくい傾向にあります。そのため、園など集団生活の場で周りが気づいたり、小学校以降に本人が自覚したりするケースが多いようです。周りの子に比べて相対的に聞き取りづらい状況であっても、本人にとっては生まれたときからの状態ということもあって、なかには、自覚がないまま大人になり、インターネットなどで情報に触れて初めて気づく人もいます。
残念ながら、LiD/APDの検査や診断ができる医療機関はまだ多くありません。しかし、診断がなくても、まずは子どもの聞き取りづらさに気づけると、対応を工夫できます。そうすることで子どもの困りごとが減り、「聞き取れる」「理解できる」ことが増え、子どもの生活の質は大きく変わるはずです。大切なのは、こうした症状がある子がいると知ることです。正しい知識を持ったうえで、子どもが暮らしやすいように環境や対応を工夫しましょう。
聞き取りづらさが見られる子どもの姿
友だちとの会話がうまくいっていない
話を聞いていないように見える
指示と違うことをする、周りを見てから行動する
聞き間違い、言い間違いが多い
背景にある聞き取りの特性
雑音の中で聞き取りづらい(カクテルパーティ効果※の弱さ)
話し相手の声や、周囲の人の足音といった雑音など、複数の音の中から特定のものを選択して聞き取れない。
ほかの音に注意が引きずられる(注意機能の弱さ)
注意や集中が小さなきっかけで途切れやすく、そちらに注意が奪われると聞き取れなくなる。
耳からの情報が処理できない(聴覚情報処理の弱さ)
耳で聞くだけでは、ことばが単なる音として耳に入り、意味を持つ単語や文章として理解できない。
必要な情報を覚えておけない(ワーキングメモリーの弱さ)
話の内容を理解するために、必要な情報を覚えておく力が弱い。
教えてくれた人/国際医療福祉大学
成田保健医療学部言語聴覚学科講師
佐々木香緒里
取材協力/近畿LiD / APD当事者会
イラスト/モリナオミ
取材・文/こんぺいとぷらねっと
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掲載されているのは

PriPriパレット 2024年8・9月号

PriPriパレット 2024年8・9月号

28-31ページに掲載

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