My Wonder あなたの保育をサポートする

支援のアイデア

どう対応する?暴言・暴力・自傷行為②

「バカ」「うざい」などの好ましくないことばを言ったり、すぐに手が出てしまったりする子や、自傷行為で自分を傷つけてしまう子がいます。子どもが深く傷つくだけでなく、保育者や保護者にとっても心配なそのような行動には、発達障害の特性が影響していることも。どのような対応が必要か考えていきましょう。

暴言・暴力

「バカ」「うざい」「きもい」などの暴言や、たたく・蹴るなどの暴力は、相手の気持ちや体を傷つける望ましくない行為。その背景にはどのような理由があるのでしょうか。4つの事例をもとに、対応のポイントを紹介します。

勝ち負けへのこだわりが強く、ゲームに負けそうになると
「うぜえ!」と叫んで暴れるBくん

ボードゲームがブームの5歳児クラス。ある朝、BくんとTくんがふたりでボードゲームをしていました。劣勢になると、Bくんは途端に機嫌が悪くなり、イライラしながら机の脚を蹴り始めました。Tくんが「やめて! 蹴らないで!」と言うと、Bくんは「うぜえ!」と叫んでボードゲームをひっくり返しました。
Bくんってこんな子
5歳。特定の物や事へのこだわりが強く、融通が利きにくい。乗り物の名前に詳しく博学な一面も。気持ちをことばで表現するのが苦手で、友だちに言い負かされることが多い。
ふだんからのポイント ①
あそぶ前に「負けても怒らない」とクラス全体で約束しておく
Bくんには勝ちか負けかにこだわる白黒思考が強く、負けを受け入れられないのでしょう。そんなBくんには日頃から、「ゲームは勝つこともあれば負けることもある」と伝え、あそぶ前にはクラス全体で「負けても怒らない」という約束をしておきます。
ふだんからのポイント ②
勝ち負けのあるあそびは当分、控える
負けるたびに暴言や乱暴なふるまいをするようなら、Bくんはまだ勝ち負けのあるあそびを楽しめる発達段階ではないと捉え、当分は控えてもよいでしょう。その間、ふだんの保育のなかで、たとえ負けても「負けちゃった」と笑い飛ばす保育者の姿をBくんに見せるなど、“負けてもいい”という価値観を育てていくことも大切です。

園では穏やかなものの家では家族に「バカ」「死ね」と言ったり、
噛みついたりするCちゃん

4歳児クラスへの進級時にクラス替えをした4月以降、家では機嫌が悪く、気に入らないことがあると、母親に「バカ!」「死ね!」と乱暴なことばを言うように。母親が「そんなこと言っちゃだめ!」と叱ると、腕に噛みつかれたそうです。母親以外の家族にも暴言や暴力があるとのことで、保護者から相談がありました。
Cちゃんってこんな子
4歳。園では、あまり自己主張する姿はなくおとなしい。目立った発達の遅れはないが、集団のなかでは行動全般に遅れをとりがち。
ふだんからのポイント
Cちゃんが園で安心して過ごせるように、環境を見直す
園では穏やかに過ごしているように見えるCちゃん。しかし、実は集団のなかでの状況理解に困難さがあり、困りごとや不安があってSOSを出せずにいる可能性も。そのフラストレーションが、家庭での暴言や暴力となって表れている可能性も。まずは園でのCちゃんの様子を注意深く観察してみましょう。Cちゃんの困りごとや不安の原因が予測できたら、その原因を減らせるように以下のような環境づくりを取り入れるとよいでしょう。
園における環境づくりのヒント
ひとりで静かに過ごせる場所を用意する
視覚や聴覚に過敏さがあり、人が多い賑やかな場所ではストレスを感じやすい子もいます。疲れたときに、ひとりで安心して過ごせる静かな空間(避難場所)を保育室の一角、あるいは別室に用意しておくとよいでしょう。
\どうする?/
周囲の子へのケアとクラスづくり
暴言や暴力が多い子は、周囲の友だちとトラブルになることも少なくありません。そのため、保育者は暴言や暴力を受けて傷ついた子へのケアに心を配ることも必要です。クラス全体がギスギスした雰囲気にならないようにするための配慮について考えます。
“その子”のよいところをクラスの子に伝える
暴言や暴力が多い子は、保育者から注意を受けたり、友だちから非難されたりする経験が多くなりがち。“その子”は仲間に受け入れられないことで、いらだちが増し、さらに暴言や暴力が増える悪循環にならないようにしましょう。対象児が得意なことをクラス活動に取り入れるなど、対象児のよい面がクラスに伝わるようにする工夫も大切です。対象児のよい面を見つけ、そこを引き出しながらクラスの子とのつながりを深めていきましょう。

それでも暴言・暴力が起きたときは……
暴言や暴力を受けた側の子は、理不尽な行為にショックを受け、モヤモヤした気持ちになっています。保育者は、「びっくりしたね」「痛かったね」などのことばをかけながら、その子の気持ちに丁寧に寄り添うことが必要です。その上で、暴言や暴力をした子がなぜそんなことを言ったりやったりしてしまったのか、その気持ちを代弁して伝え、双方の子に遺恨が残らないようにしましょう。

教えてくれた人/
社会福祉士、臨床心理士 清水友康
イラスト/たかはしけいこ
撮影/五十嵐 公 久保田彩子 中島里小梨(世界文化ホールディングス)
取材・文/森 麻子
お知らせカテゴリー

この記事が詳しく
掲載されているのは

PriPriパレット 2025年6・7月号

PriPriパレット 2025年6・7月号

4,6,10,12ページに掲載

詳細はこちら