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どう対応する?暴言・暴力・自傷行為③

「バカ」「うざい」などの好ましくないことばを言ったり、すぐに手が出てしまったりする子や、自傷行為で自分を傷つけてしまう子がいます。子どもが深く傷つくだけでなく、保育者や保護者にとっても心配なそのような行動には、発達障害の特性が影響していることも。どのような対応が必要か考えていきましょう。

自傷行為

壁や床に頭を打ちつける、自分の腕に噛みつくなど、自分で自分の体を傷つける自傷行為。発達に特性のある子に時折見られるそのような行為は、なぜ起こるのでしょう?自傷行為をする理由や、園での対応について2事例をもとに考えます。
落ち着いてあそんでいたのに、急にソワソワと落ち着かなくなり、
壁に頭を激しく打ちつけるEくん

登園時のの自由あそび時間は、次々に登園してくる子どもたちで賑やかです。保育室のあちらこちらで各々が好きなあそびをしています。そんななか、いつもひとりで黙々とあそんでいることが多いEくんですが、次第にソワソワと落ち着きなく歩き回り、やがて壁に激しく頭を打ちつけ始めました。
Eくんってこんな子
4歳。ことばの発達に遅れがある。活動や興味の対象が限定的で、人と関わることへの関心は薄い。自由時間はひとりで好きなあそびに没頭していることが多い。極端な偏食がある。

自傷行為 
理由と対応の基本
自傷行為が起きにくい環境づくりが大切
自傷行為は、自閉スペクトラム症(ASD)や知的発達症などに見られる特性やその場の環境が影響して生じることがあります。自傷行為の引き金となる原因は様々ですが、行為をしている際の子どもはいずれも極度の興奮状態にあるため、保育者が慌てて止めに入るのは逆効果。安全を確保し、本人が落ち着くまで近くで見守りましょう。頭を壁に打ちつけていたら壁と頭の間にクッションを挟むなど、けがを防ぐ対策を講じることも必要。いずれにしても、日傾から自傷行為が起きにくい環境をつくることが大切になります。
覚醒を上げるための自己刺激
発達に特性のある子のなかには、覚醒を適切な状態で維持することが苦手な子がいます。覚醒とは、脳の活動のレベルの程度で、覚醒が下がると集中力も下がってぼんやりした状態になります。自分の頭をたたく、腕を噛む、髪の毛を引っ張るなどの自傷行為は、みずから自分の体に刺激を入れて下がった覚醒を上げるために行っていることもあります。覚醒を維持するための自傷行為は多くの場合、本人は自覚がないまま無意識で行っています。
不安やイライラなどの情動の調整
発達に特性のある子は、自分の気持ちや要求を相手に伝えることが苦手です。そのため、思いや要求が伝わらないなどのもどかしさが自傷行為となって表れる場合も少なくありません。また、特にASDの特性がある子は見通しをたてたり状況を理解したりするのが苦手なので、不安感が強い側面もあります。不安感やもどかしさ、イライラなどを自力で解消できないことも自傷行為の要因になっています。
\自傷行為に対する/
基本の対応 3つのポイント
その場での対応 ①
慌てず、静かに関わる
子どもの自傷行為を目にしたら、慌ててしまうのも無理はありません。しかし、自傷行為を止めるには興奮状態の子どもを落ち着かせることが必要なので、保育者が大声を出したり、体を押さえて止めたりすると、かえって子どもを刺激することになり逆効果。子どもがけがをしないように安全を確保し、慌てず冷静に関わりましょう。
ふだんからのの対応 ②
環境を見直して、ストレスや不安を軽減する
自傷行為は、見通しが持てなかったり状況を理解できなかったりする不安や、感覚過敏による不快さが引き金になって起きることが少なくありません。自傷行為が起きた状況の記録をつけていくと、その引き金となる原因が見えてくるので、環境を見直し、できるだけその原因を取り除きましょう。不安やストレスが軽減され、自傷行為が少なくなります。
クラス活動をしているときに自分の手を噛んだり、
頭をげんこつでたたいたりするFちゃん

朝の会や製作、リトミックなどのみんなで一緒に活動をする場面では、あまり活動に興味を示さないFちゃん。ぼんやりしていることが多く、気づくと自分の手を口に入れて噛んでいたり、頭をたたいたり、髪の毛が抜けるほど激しく引っ張ったりしています。
Fちゃんってこんな子
4歳。発達がゆっくりで、集団生活のでは活動についていけず、個別の援助が必要なことも。
ふだんからのポイント ①
気持ちの切り替えを促す
活動に興味が持てずに脳の覚醒が下がった状態になると、覚醒を上げようとして無意識に自分の手を噛むなどの自傷行為をすることがあります。そんなとき、「やめなさい」とあからさまにやめさせようとすると、本人の意識が自傷行為に向いてしまい、かえってその行為への固執を強めてしまうことも。自傷行為には触れず、好きな絵本を見せながら別室に誘うなど、気持ちの切り替えを促してみましょう。
ふだんからのポイント ②
先の見通しを持てるようにして不安を軽減する
何をしているのか? いつ終わるのか? といった活動の見通しが持てないことで不安が生じ、自傷行為に至ることも。活動前に、活動内容や終わる時間をその子がわかる伝え方で示しておきましょう。絵カードを使った活動の進行表や手順書などを用意し、それらを見ながら活動してもよいでしょう。
\暴言・暴力・自傷行為を軽減/
保育現場発の支援実践例
保育者のアイデアから生まれ、園で実践している視覚支援を紹介。暴言・暴力、自傷行為を軽減する環境づくりや支援の参考に。
教えてくれた人/
社会福祉士、臨床心理士 清水友康
イラスト/たかはしけいこ
撮影/五十嵐 公 久保田彩子 中島里小梨(世界文化ホールディングス)
取材・文/森 麻子
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掲載されているのは

PriPriパレット 2025年6・7月号

PriPriパレット 2025年6・7月号

4,14,16,18ページに掲載

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